2026年2月4日、世界最大のデリバティブ取引所であるCME Groupが、2025年第4四半期の決算説明会において、Google Cloudと共同で「トークン化現金(Tokenized Cash)」を開発中であることを明らかにしました。同社のCEOであるTerrence Duffy氏は、このデジタル資産を2026年内に提供開始する計画であり、業界参加者が利用できる形で分散型ネットワーク上に展開する可能性を示唆しています。

今回は、この発表が伝統的な金融市場の決済インフラに与える影響と、その背景にある動向について解説します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

デリバティブ市場における「担保」の課題

このニュースを理解するには、デリバティブ取引における「証拠金(マージン)」と「決済時間」の関係を把握する必要があります。先物やオプション取引では、ポジションを維持するために、取引所(清算機関)に対して証拠金と呼ばれる担保を差し入れる必要があります。

従来、この担保の移動にはFedwireなどの銀行間決済システムが利用されてきましたが、これらは銀行の営業時間内にしか稼働しません。一方で、暗号資産市場やグローバルな金融イベントは24時間365日動いています。週末や深夜に市場が急変し、追加証拠金(マージンコール)が発生した場合、法定通貨を即座に移動させる手段が限られていることが、資金効率を悪化させる要因となっていました。

CMEが開発する「トークン化現金」は、ブロックチェーン技術を活用することで、こうした制約を取り払い、24時間365日の即時決済(Settlement Finality)を実現しようとするものです。

CMEが構想する「トークン化現金」の詳細と戦略

決算説明会でのDuffy氏の発言によると、このプロジェクトには大きく分けて2つの側面があります。

1つ目は、CME自身が発行体となる可能性です。Duffy氏はこのトークン化現金について「独自のコイン(own coin)」としても取り組んでおり、それを「他の業界参加者が利用できるように分散型ネットワーク上に置く可能性がある」と述べています。これは、単なる内部台帳のデジタル化にとどまらず、市場全体で流通可能な決済手段を目指していることを示唆しています。

2つ目は、このシステムを支えるインフラです。Google Cloudとの連携は、一般的なクラウド移行にとどまりません。CMEグループの清算機関であるCME ClearingのPresidentを務めるSunil Cutinho氏は、GoogleがCME専用の「シカゴリージョン(purpose-built Chicago region)」を構築中だと明かしました。これは超低遅延(Ultra-Low-Latency)取引を実現する設計をもったクラウド環境で、2027年に顧客向けテストを開始する予定です。

今回のトークン化現金は、こうした独自のインフラ構築と並行して展開されており、単なる実証実験ではなく、信頼性の高い実装を目指す姿勢が見て取れます。

発行体リスクの管理と24時間化への布石

CME自身が発行体となるパターンの他に、外部の発行体によるトークン化資産についても同じプラットフォームで受け入れる可能性も示唆されています。

外部のトークン化資産の受け入れ基準について、Duffy氏は「誰が発行しているか」が重要であると強調しました。「金融システム上重要な金融機関(SIFI:Systemically Important Financial Institution)」が発行したトークンであれば受け入れやすい一方で、信用力の低い小規模な銀行が発行するトークンには慎重な姿勢を示しています。企業およびプラットフォーム全体をリスクに晒さないため、発行体の信用リスクを厳格に評価する方針です。

また、この動きはCMEが進める「24時間取引化」とも密接に連動しています。CMEは次の四半期を目途に、暗号資産の先物およびオプション取引を完全な24時間365日取引へと移行させる計画を進めています。市場参加者が週末を含めて常にリスク管理を行えるようにするためには、それに伴う資金移動も24時間対応である必要があるのです。

資本効率の最大化を狙う

CMEがトークン化担保に注力する背景には、具体的な実績があります。Cutinho氏は決算説明会にて、米国債などを清算するFICC(Fixed Income Clearing Corporation)とのクロス・マージニング(証拠金相殺)により、金利関連商品全体で1日あたり約250億ドル(約3.9兆円)もの証拠金を削減しているということを明らかにしています。

Duffy氏は、今回のトークン化現金や承認待ちの米国債清算(Treasury Clearing)も、この「資本効率の最大化」戦略の一環だと位置付けています。ブロックチェーン技術の導入は、24時間取引の実現に加え、この大規模な資金効率化を加速させるための手段となりそうです。

考察

CMEが「独自のコイン」を検討し、それを分散型ネットワークに乗せる可能性に言及した点は注目に値します。これが実現すれば、CMEの流動性がオンチェーン市場に直接接続されることになり、DeFi(分散型金融)とTradFiの境界線はさらに曖昧になるでしょう。

一方で、Duffy氏が強調したように、カウンターパーティリスクへの懸念は依然として最大の課題です。CMEが発行体の信用力を厳しく選別する姿勢を示したことは、今後のトークン化市場において「誰が発行したか」という信用の格差が、トークンの流動性や担保価値に直接反映される二極化が進むことを示唆しています。Google Cloudとの提携によるインフラ構築が、2026年にどのような形で実装されるのか、その技術的な詳細と採用されるネットワークの規格に注目が集まります。

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